列車
長距離列車の鈍行に乗り合わせると おびただしい米の運び屋が乗っていた 化粧っ気のない担ぎ手たちは 我がもの顏に車内を占領し 足を投げ出し大きな声でしゃべり 大きな声で笑う 友がポツリと言った あなたのこと親友だと思っているのに わたしあなたのことわからない わたしはたじろぐ これ以上何を見せればいいのか 賑やかな席に妙な シンパシーを感じていた 確かなものってなに 教えて がしゃんと音を立てて 列車に連結したわたしの心は 旅に出た 列車は長い ながいトンネルに入ろうとしていた
私が高校生のころ、まだ直江津発の長距離列車が走っていました。たまに通学の行き帰り、その 列車に乗り合わせると、大きな米の風呂敷包みをいくつも担いだ女性たちがあわただしく乗り降 りしてきました。自主流通米が出廻る前の、ヤミ米などと言われていた頃の話です。当時の私に は彼女たちがいかにも世間を知りつくしているように思われ、畏怖と畏敬の入り混じった複雑な 目で見ていたものです。その後、京都まで通うようになったころには列車もそんな風景も見かけ なくなりました。そのかわり、電車が逢坂山と東山の長いトンネルに入るたび、ゴォウォーンと いう轟音とともにキィーンと気圧が変わり、一瞬にして世界が暗転し、窓の景色が自分の顔にな ると、これから異世界へ飛び込んで行くようでした。
卯 埜(うの/詩・写真)
2022年5月5日RT(446)