“5%”の温かい医療とは
医師で作家の鎌田實さん(諏訪中央病院名誉院長)の言葉です。鎌田さんは、ある雑誌で自らの出自を明かしました。「1歳10か月で実の両親に捨てられた。でも私を拾ってくれた両親は最期までそのことを口にしなかった」そうです◆終戦後の混乱期には駅のホームや地下道には戦争孤児や捨てられた子どもらが重なって寝ていた。養父は働き者で厳しい人だった。母親は、心臓が弱く鎌田さんが小学校のころはずっと入院。当時は国民皆保険制度がなく、父親は昼夜働いた◆長屋暮らしで砂糖や醬油も借りた生活が。その受けた恩や親切をいつも口にする。アフリカで医療活動をしていたシュバイツァーのように、病などに苦しむ人々を助ける医師を目指すことを決めた◆だが父親は「貧乏人の子どもが医者にはなれん」と反対。鎌田さんの熱意に負け、一つの条件を出しのです。「患者さんをどんなことがあろうと怒鳴るな。いつも貧乏な人や弱い人を大切にしろ」
友人らの多くの医師は都会へ。だが、鎌田さんは赤字を抱えた地方の病院へ。父親のいうことを実践したのです。着任した病院で聞いた言葉にショックを受けました。「1年以上風呂に入っていないお年寄りがいる」。訪問した。365日、奥さんがひとりで介護をして疲れ切っていた。それが「ディケア」の取り組みに。そして食事改善、運動など「予防医学の重要性」へとつながったのです
コロナ感染で病院が逼迫している中で、記者時代に取材してから30数年ぶりにお電話で話を。「奉仕という温かい医療の心とは、あえて数字で示すと全体医療の5%相当かな」。パソコンを見て、患者を診ないという医師への諌めかなとも。たとえわずかでも思いを込めたひと言で、患者の不安を解きほぐす。「諏訪中央病院では、医師も看護師も職員も、皆その“5%の重さ”を理解できたから、医療の骨格である95%の部分も充実させることができた」という◆更に、「実は初診が一番大切」「循環器、神経科など縦割りの病院では、心身全体を見ることができない」とも。「大学では教えてくれない温かい医療を学びたい」と今も若い医者が訪れる◆「最後は体もこころも安らげる幸せの医療受けさせたい」。筋トレに励む鎌田さんの優しいまなざしに、養父母の姿があった。
(西村敏雄)
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