木漏れ日の下で少女は本を読む…


【slow news/京都・岡崎/思い思い/図書館】

岡崎界隈を散策するのが好きです。地下鉄を東山駅で降りて、白川沿いの小径をきらめく川面を眺めながらゆっくり歩きます。仁王門通に出て横断歩道を渡り、短い橋を渡って平安神宮の朱の大鳥居を見上げると、京都府立図書館にたどり着きます。

出迎えてくれたのは、前庭にひっそりと佇む二宮尊徳の像です。背中に薪を背負い手に書物を持って読みながら歩く姿は、勤労勤勉の象徴でした。ただここの像は少し変わっていて、背中に薪はなく読書に没頭している上半身のみの姿になっています。かつて日本全国の小学校で見かけた二宮尊徳像は姿を消し、その代わりに背中にリュックを背負い手にスマホを持って操作しながら歩く若者の姿を街で見かけるようになりました。

京都府立図書館が岡崎の地に開館したのは明治42(1909)年の4月だそうです。レンガ造の3階建、延べ面積772坪。閲覧室は普通・特別・図案・新聞・婦 人・児童、3階に講演室・研究室を兼ねて二陳列室。書庫は木造4層構造。美術館的機能もあり、明治45(1912)年には竹久夢二の第1回個展が開かれ、大正9(1920)年には 岸田劉生の個展が開催されたそうです。

では、唐突ですがここで質問です。あなたにとって図書館とはどんな存在ですか?いろいろな答えがあると思います。

ひと昔前までは、調べ物をするのに役立ったのは、学校の図書室や町にある公共の図書館でした。図書館はあらゆる情報が大量に集積されている知の空間、館内に足を踏み入れるだけで少し賢くなったように錯覚をさせてくれる場所です。読書を推進する役割を担っているのも図書館です。幅広い分野の娯楽的な本が図書館の書棚に大量に並んでいます。図書館とはどんな存在?の質問に対して、「情報を提供し娯楽を提供するところ」というのがひと昔前までの模範解答かもしれません。

「情報を提供し娯楽を提供するところ」―それだったらインターネットで充分だよ。―現代では、パソコンやスマートフォンでインターネットに接続すれば、世界中のリアルタイムの情報が瞬時に入手できて、知りたいことを検索すれば関連する情報が大量に出てきます。インターネットの世界には娯楽もいっぱいです。青空文庫には昔の文芸作品が詰まっていて無料で読めます。SNSでは世界中の人が動画や画像を貼り付け、テキストや音声で自分の言葉を大量に発信しています。「図書館に行かなくてもインターネットで充分だよ」—これが質問の答えと実感している人が多いのではと思います。学術や研究での利用ではなく、普段の生活のなかでの図書館利用であれば、うなずける解答です。

では、そもそも図書館の役割とはなんでしょう?日本図書協会のホームページに「図書館の自由に関する宣言」が掲載されています。宣言の冒頭には、「図書館は、基本的人権のひとつとして知る自由をもつ国民に、資料と施設を提供することをもっとも重要な任務とする」と書かれています。そして宣言の最終章で、「図書館の自由が侵されるとき、われわれは団結して、あくまで自由を守る。」と締めくくっています。図書館は、知ることの自由を守る強固な砦としての役割を果たすと宣言しているわけです。つまり、ある意味においては、“図書館は自由の象徴”というのが本来の役割であり存在意義のようです。この宣言を読むまでは認識していなかったことです。作家の有川浩は、図書館で「図書館の自由に関する宣言」を見て発想を膨らませ小説『図書館戦争』を書いたそうです。この作品はアニメや実写ドラマ・映画にもなりましたね。

さて、もう一つ、図書館について思うことがあります。それは図書館はドラマチックだということです。岩井俊二が監督した映画『Love Letter』では、同姓同名の男女の中学生の淡い恋心が育まれたのは学校の図書室でした。最近では、住野よるの小説で映画化された『君の膵臓をたべたい』でも図書館が重要な役割を果たしています。(詳しく書くとネタばれになるので興味がある人はビデオを観てください。)図書館は本と出会う場所であるとともに、人と出会う場所でもある。本を探しに行って同じ書棚で他の素敵な本と偶然出会う。本を探しに行って素敵な人を偶然見つける。(これはあまりないことですが。)図書館は偶然の出会いを創り出す空間でドラマが生まれる空間でもあると、個人的にはそう思っています。

京都府立図書館に入館して階段を地下の閲覧室へと降りると、大きなガラスの向こうに広がるサンクンガーデンに読書をする少女の像が置かれています。抜水政人の彫刻作品『こもれび』です。晴れた日に木漏れ日の下で好きな本を読む。この愛らしい姿は、無力で非力な少女が自由を楽しむ姿なのかもしれません。

2019年1月20日RT(75)

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編集部 春風

編集部 春風

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