蒼い空と図書室と高瀬川の流れと


【slow news/京都・河原町/想い、思い。/空の下の図書室で思うこと】

河原町通の東側の歩道をあてもなく歩いていて、出てきた細い道をなんとなく高瀬川へと向かいたくなって曲がって歩いて行くと、小さな本棚が一つだけの小さな露店の図書室が、なぜだか突然にありました。

扉をただ開けただけの小さな小さな図書室に近寄って見てみると、小さくて四角い黒っぽい看板に白い文字で「京都歩きの本棚」と書いてありました。

4段に区切られた本棚には、上の3段に京都の町のことが書かれたいろいろな本が行儀よく並んで、太陽に照らされた白っぽい表紙が眩いくらいに輝いていました。

陽に焼けた本たちは色が少し褪せていて、立ち姿も少しくたびれていて、長い年月そこにある寂しそうな細長い壁と、だるそうに立っている扉と、とてもお似合いの様でした。

庄兵衞は只漠然と、人の一生といふやうな事を思つて見た。人は身に病があると、此病がなかつたらと思ふ。其日其日の食がないと、食つて行かれたらと思ふ。萬一の時に備へる蓄がないと、少しでも蓄があつたらと思ふ。蓄があつても、又其蓄がもつと多かつたらと思ふ。此の如くに先から先へと考へて見れば、人はどこまで往つて踏み止まることが出來るものやら分からない。それを今目の前で踏み止まつて見せてくれるのが此喜助だと、庄兵衞は氣が附いた。

苦から救つて遣らうと思つて命を絶つた。それが罪であらうか。殺したのは罪に相違ない。しかしそれが苦から救ふためであつたと思ふと、そこに疑が生じて、どうしても解けぬのである。

森鴎外が書いた「高瀬舟」。
江戸時代、島流しになる罪人と奉行所の役人は、高瀬川を舟に乗って下ったそうです。

次第に更けて行く朧夜に、沈默の人二人を載せた高瀬舟は、黒い水の面をすべつて行つた。

京都の蒼い空と、くたびれた小さな図書室と、流れ続ける高瀬川、10代に読んだ物語と…

2019年3月3日RT(184)
編集部 春風

編集部 春風

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