希望と勇気、サムマネーがあれば!
「人生なんて簡単さ」「3つのことがあれば生きていけるんだ」「希望とね、勇気とね、サム・マネー(幾らかのお金)だよ」。本などの断捨離中に、喜劇役者・チャールズ・チャップリンのDVD「ライム・ライト」が出てきて観ました◆約2時間半のストーリーに泣けました。そのさわりを・・・チャップリン演ずる売れない酒浸りの道化師・カルヴェロが、病気で踊れなくなり、生きる希望を失っていた美しいクレア・ブルーム演じるバレリーナのテリーを励ますプラトニックな愛の物語です◆自殺しようとしたテリーはその道化師に助けられたときに聞きました。「どうしたら、生きていけるの?」。普通なら説教じみたお話がと思いきや、暖かい眼差しで道化師が言ったが冒頭の言葉です◆ですが、この言葉はもちろん彼女への助言です。が、その時のシーンをよく観ると、その後の彼女の晴れの舞台や彼女が初恋の相手とが再会し、恋に落ちていく様子を道化師は想像して、落ちぶれた自分自身に言い聞かせているのではと・・・お金もない名誉もない、しがない道化師であるカルヴェロが、彼女の幸せを願い二人のプラトニックラブに自ら終止符をうち、市井の道化師に戻るのです・・チャップリンらしいなぁ。
チャップリン扮する道化師の引き際を観ていてふと、山田洋次監督の松竹映画「男はつらいよ」(シリーズ18作目)を思い出しました。もとは柴又の金持ちの家のお嬢さん。その後、家が没落し病身になった綾(京マチ子)さんが、寅さんに「(人は)どうして死ぬの?」と聞くんです。「いやね、こう人間がいつまでも生きていると丘の上がね、人間ばっかりになっちゃうんで~ほら足の置く場所のなくなちゃって~海の中へ、ボチャン!と落っこって~死んじゃうんだよなぁ」「人の一生なんてはかないもんだけど愛があれば大丈夫だよ」◆寅さんは綾さんにとって人生最後にであった優しくて面白い男性。人にとって恐ろしい「死」をも笑いに変えてくれました。寅さんの言葉は可笑しみに溢れていますね。だから綾さんは死の恐怖より、吹き出してしまうんですね。シリーズではこの寅さんは、「いつも振られてばかり」。というより自ら身を引いて行くんです。でも「あぁまたお天道様の見える旅にでるか」とね。
チャップリンの道化師は相手の心理を鋭く見つめます。これに対して寅さんはやや破天荒の性格で一見、真逆です。が、このチャップリンの道化師も山田洋次監督が描こうとしたこの寅さんに共通するものは「無償の愛」「相手を思う心の深さ」「正義感」など。チャップリンは社会派の喜劇役者でしたが、道化師と“山田哲学”の寅さんに共通するものを感ずるのです◆コロナ禍で膨大は札びらが舞うオリンピック開催、その陰で怯える人々への思いが感じられない為政者らへの皮肉や怒りと「辛いけど正直に愛を持って生きるべき時だよ」。いま時を超えて彼らの声が聞こえてくるように思うのです。
(西村敏雄)
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