あては四条大橋に立つて居る

村山槐多(むらやまかいた)を知っていますか?

 1896年に横浜で生まれ、4歳で京都に移り住みました。京都府立第一中学校(現在の洛北高校)時代に、回覧誌『青色廃園』などを発行し、濁水や石槐と号して、詩や小説、戯曲を、また表紙絵や素描を描き早熟な才能を発揮したそうです。

 文学ではポーやボードレールを愛し、洋画家としてはマチスやマルケ、ブラマンク、デュフィらのフォービズム(野獣主義)に影響を受け、若くして数々の賞を受けたようです。

 小説や詩を創作し、異色の絵画を描いた村山槐多。失恋と放浪を経験し、デカダン(退廃的)な生活のなかで肺結核を病み、満22歳で没しました。

京都人の夜景色
村山槐多
ま、綺麗やおへんかどうえ
このたそがれの明るさや暗さや
どうどつしやろ紫の空のいろ
空中に女の毛がからまる
ま、見とみやすなよろしゆおすえな
西空がうつすらと薄紅い玻璃みたいに
どうどつしやろえええなあ
ほんまに綺麗えな、きらきらしてまぶしい
灯がとぼる、アーク燈も電気も提灯も
ホイツスラーの薄ら明かりに
あては立つて居る四条大橋
じつと北を見つめながら
虹の様に五色に霞んでるえ北山が
河原の水の仰山さ、あの仰山の水わいな
青うて冷たいやろえなあれ先斗町の灯が
きらきらと映つとおすわ
三味線が一寸もきこえんのはどうしたのやろ
芸妓はんがちらちらと見えるのに
ま、もう夜どすか早いえな
お空が紫でお星さんがきらきらと
たんとの人出やな、美しい人ばかり
まるで燈と顔との戦場
あ、びつくりした電車が走る
あ、こはかつた
ええ風が吹く事、今夜は
綺麗やけど冷めたい晩やわ
あては四条大橋に立つて居る
花の様に輝く仁丹の色電気
うるしぬりの夜空に
なんで、ぽかんと立つて居るのやろ
あても知りまへんに。
2021年8月26日RT(124)
編集部 春風

編集部 春風

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