生きるために「種子」が欲しい

 「子育ては子供に代わって闘うことじゃない」「子供が自分で闘っていくための準備を整えてやることなの」◆ジャエフリーディーヴァーの「ロードサイド・クロス」からの言葉を最初に紹介しよう。というのも好きな詩人・谷川俊太郎さんの詩に「あわてなさんな」という詩がある◆その一節を。「花をあげようと父親がいう」。息子は「種子が欲しんだ」と呟く。今度は母親が「翼をあげるわ」という。息子は「でもそれには空が要る」と言って目を伏せた◆花も翼も自由に咲き乱れ、宙を舞うことができる。こんな素晴らしい願いを両親が叶えてくれるのに、息子の回答は「種子」だった.

 故郷の北海道・旭川から初めて東京で浪人生活を。一番下の息子だっただけに心配したのだろう。住み込みの新聞配達店に月3回は手紙をよこした。「体に気をつけろ」「食べているか」。中身はいつも決まっていた◆でも、生意気にも「僕には新聞記者になる夢があるんだから」と。「生活費を少しでも」とは言えなかった。その晩は悲しさ、寂しさを枕に押し付けた◆谷川さんのいう「種子」は、10畳間に16人が暮らして真夜中まで人生を語り合い、一睡もせずに朝夕刊を配達した“友人ら”だった。上下二段ベッドが各人の部屋、カーテンが仕切りという“風通しのよさ”◆早朝、豪雨や東京では10数年ぶりという雪道を自転車を押しながら、やっと昼過ぎに販売店に。休む暇なく夕刊配達◆両親も亡くなり兄弟もいない。今に思う。「我が子だけには自分らの苦労はしてほしくない」。そう思い続けてきてくれた両親だが、自分で見つけた「種子」は今も自分の体で生きている。今、我が子ら、わが孫らを見つめて、むしろ子育てが難しい時代にあるように思える。

(西村敏雄)

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2022年1月16日RT(440)
編集部 春風

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