「ふるさとに入りて 先づ心傷むかな 道広くなり 橋もあたらし」

 石川啄木が、久しぶりに故郷の函館を訪れたときに目にした光景を歌に詠みました。啄木は知人にあてた手紙で「小生は死ぬときには函館で」としたためるほど美しい函館が好きでした。帰郷し見た風景は、函館の街の巨大な橋や広い幹線道路と。心傷めたのです。

 私が住む京都・京北や南丹・美山では、敦賀~新大阪間を結ぶ北陸新幹線の建設着手が前倒しに。鉄道建設・運輸施設整備支援機構の強引な建設に不満の声が上がっています。桂川や由良川の源流でもある京北や美山の豊かな森林破壊や水脈の枯渇、残土による土石流の発生、土地・家屋の陥没、土中のヒ素、マンガン鉱石などの生活用水に与える危険性など多くの問題点が専門家からも指摘◆「説明も不明瞭で住民への誠意なし」「知らぬ間に予備調査が行われていた」「地震がおきたらどうなるのか」。環境アセスも含めて住民は不安のどん底にいるが、「仲良かった住民らの意見が二分され、分断されたら困るのは我々住民です」。別の悩みも口にする◆建設に積極的な京都市は財政危機や盆地特有の液状化状態の地下問題も抱えている。「京都市民にとっても決して他人事ではない」◆もともと、同新幹線は、滋賀県米原駅で東海道新幹線と結ぶ案が急遽、京北・美山、京都、八幡市、京田辺市を迂回する案へ変更された。そのため建設費も米原経由より数倍かかるとの試算されている。「誰のための北陸新幹線か」。関連企業・経済界や運輸族らの利権のため?

 啄木が好きだった函館も寂れて景観も変わった。今は北海道新幹線が暗闇のトンネルを走り抜ける。「ガタンゴトン」。車窓から四季の自然が楽しめた風景が消えた◆啄木の心も冷える。新たに一句。「ふるさとに入りて 先づ心傷むかな トンネル暗い 渡り鳥いずこへ」と。

(西村敏雄)

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2022年1月23日RT(659)
編集部 春風

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