月の暈、春遠くない枝に枝

 二月四日 立春。

すこし夜の雪がつんでゐる、寒いことは寒いが、大したことはあるまい。
たよりいろ/\――俊和尚、孝志君、緑平老、敬治坊、そして雑草二月号。
下痢で弱つた、酒のためか、寝冷のためか、それとも麦飯のためか、とにかく腹工合も悪いし、懐工合はなほさらよくないし、節食断酒の好機である、しばらくさうしよう。
△昨夜、樹明君と立ち寄つたおぢさんのところで、血書の話を聞いて、みんな微苦笑したことであつた、血書もかう流行的になつてはインチキがあるのも当然だらう、黒い心を赤い血で書いて、それがどうしたといふのだらう、裃をきてゐても不真面目があり、どてらをきてゐても真摯がある、シンケンらしいウソを呪ふ。
けふもいちにち、ものをいふこともなかつた、たゞ執筆し読書した、そして月のよろしさをよろこびながら寝た。
 更けゆけば咳入るばかり(述懐)
・干大根が月のひかりのとゞくところ
 月の暈、春遠くない枝に枝
・月が暈きた餅持つてきてくれた(樹明君に)
 別れよう月の輪を見あげ

種田山頭火「其中日記(二)」

2022年2月6日RT(161)
編集部 春風

編集部 春風

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