責任転嫁の罪

 「戦争が終わったら、まるで自分一人『戦争には反対してきたんだ』と偉そうなことを言う人がいる」。あのテレビ視聴率50%台という明治生まれの女性の苦労を描いたNHKの朝ドラ「おしん」(1983年)◆その脚本家・橋田壽賀子さんが亡くなって来月4日で1年になる。明治の初め、山形の貧しい小作農家に生まれた「おしん」が、口減らしのため年季奉公に出たところから始まる◆奉公先から逃げ出す途中で、日露戦争に嫌気をさした脱走兵に救われる。投獄された農民運動家との出会いもある。結婚し、大学生の息子がフィリピンで死んだ。夫の竜三は終戦直後に軍に協力したことを悔いて自決した◆そんな「おしん」の姿に橋田さんの「反戦・平和」への思いが滲む。「鬼畜米英」を叫んで戦争へ我が子を送った。終戦で一夜にして「ハロー・マッカーサー」に。「東上靴店」も「ワシントン靴店」へと、落語のネタのような話もある。

 明治から大正、昭和へと、おしんが背負った貧困、封建、いじめ、戦争という重すぎる課題に、日本だけでなく約70か国で放映され世界中の人々が涙を流した◆冒頭のおしんの言葉に、「凡愚」という意味を見る。それは、「正義」や「主義」の錦の御旗を掲げ戦争を正当化し、その理由が無くなると途端に、「上に騙された」と責任を転嫁する人に向けた皮肉が込められている。「おしん」の目は、時代を越えて世の中の“落とし穴”を見据えていた。

冬の最上川

 橋田さんは、俳優に一切のアドリブを許さなかった。それが、本筋を見失うことにもつながるからだ。彼女の頭には、「凡愚」という言葉はない。奉公にでる舟の上から「かぁちゃん」と泣き叫ぶおしんの声が耳に残っている。

(西村敏雄)

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2022年3月22日RT(482)
編集部 春風

編集部 春風

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