まど・みちおさんの伝えたいこと
「きのうの火事が出ているわ、とママが声を出して新聞を読んだ」。近所で火事があり、その家は全焼したが、さいわい亡くなった人は出なかったという記事です◆山口県生まれの詩人のまど・みちおさんの詩集「火事」から◆「なん億回、こんな火事の記事が出たのだろう。世界ではなん兆回かもしれない」。詩はそれでは、終わりません。「そして1回でも出たことがあるだろうか」として、「火事で死んだネズミたちのことが」「そのネズミに付いて暮らしていたノミの親子のことも」。ふだん気が付かない、見えないところまで、まどさんの心が見つめていたのですね。
コロナ禍もあり、ぎすぎすした社会の隅で、孤独の中でひっそり生きている人たち、ずっと家の前の公園や道さえも窓越しにしか見られない人たち。彼らの存在に少しでも思いをはせたことがあるだろうか。それで眠られない夜が続いたことがあるだろうか。ふと我に返って思うのです◆世界中では、火事より怖い「戦争」がいま、起きています。ピカソが描いたドイツ軍の「ゲルニカ」や日本軍の「重慶」など無差別爆撃は戦争史上初めて、子どもたちや病人、お年寄りなど市民たち弱者を対象にした殺りくでした。先の大戦では、4月18日の初の本土・東京大空襲でも、約2時間の間に子どもたちを含む10万人を超える都民が焼け死にました◆それは、火事で焼け死んだネズミとノミの親子の姿にも重なるのです。「かあさん」とも言えず泣き叫びながら亡くなっていった小さき者への熱い思いが体中を巡ります。
「ふたあつ、ふたあつ、なんでしょか」「おめめが~ふたつでしょ」「まだ、まだ、いいもの、なんでしょか」「かあさんの、おっぱい、ほら、ね、ふたつでしょ」◆今も爆弾が降り注ぎ恐怖に慄き、飢餓・難病など死の淵で佇んでいる世界中の子どもたちに、まどさんの詩・「ふたあつ」から「ふたあつ、おっぱい」を届けたい、そう思います。
(西村敏雄)
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