小石だって何かの役に
「どんなものでも、何かの役に立っているよ」。映像の魔術師と言われたフェデリコ・フェリーニの代表作「道」に出てくる綱渡り芸人の男が、ヒロインの小娘・ジェルソミーナに語りかけた◆彼女は、母親に、粗暴な大道芸人に売られた。酒と女が好きな大道芸人は、胸に巻いた鉄の鎖を筋力で引きちぎる大男だ◆彼女は、いつも自分が「必要とされ、役に立ちたい」と思っていたが、彼は邪険に扱うばかり。ある日、逃げ出した。そこで出会ったのが優しい綱渡り芸人が、ある事件で彼女の元をさることになった◆別れ際、彼が彼女の顔を見つめて微笑みかけて言った。「道に転がっているこの小石だって役に立っている」「君もそうなんだよ」。純粋な心の持ち主の彼女は、ずっと「自分はただ生きているだけの人間」と思い続けてきた。
元気な人ばかりではない。障がいを持つ人や高齢者たちから、「優しさ」や「生きる勇気」をもらうこともある。命あるものすべては、自分だけでは「完結」できない。あの美しい花でさえも、雌しべと、雄しべがそろっているだけでは咲かない。風が、そして虫たちが仲立ちして新たな命を結んでくれる◆目の前に広がる四季折々の自然をみていると、見えないところで、「誰かの、何かの役にたっている」と思う。哀調帯びた音楽を背景に、小娘役を演じたジュリエッタ・マシーナが目に涙をためた顔が忘れられない。
(西村敏雄)
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