「惜命」から「幸命」と

 「七夕竹(たなばただけ) 惜命の 文字隠れなし」。俳句をたしなむ方なら俳人・石田波郷をご存じだろう。彼は療養所で、患者が書いた七夕飾りの短冊を目にした。そこに「惜命」の二文字が◆波郷はその後に出した「句集」につけたのが「惜命(しゃくみょう)」だ。いくら国語辞典を開いてもこの言葉は見当たらない◆「命を惜しむ」「命が惜しい」・・・当時、結核などで多くの人が次々と命を落としていった。波郷自身も胸を病み療養所生活を送っていた。「翌日には隣の部屋が空っぽになっていた」。辛い思いをしている。

 筆者も5、6年前にある手術をした。手術もさることながら中々麻酔から覚めずに辛い思いをしたことがある。少し運動をと病院内を散歩した。ふと気が付いた。病室の名札の上には花や小鳥などの奇麗な小さな絵が飾ってあった◆ある時、いつもの花や小鳥がなくなっていた。代わりにイエスキリストの小さな絵が。次の日には元の花や小鳥が掛かっていた。ナースステーションで聞いた。「あの病室に入院されていた患者さんがお亡くなりになったんです」と◆聞きながら涙がとめどもなく流れてきたのを思い出した。「惜命」。今なら更に理解できる。新型コロナ、引きこもり、老々介護を巡りで痛ましい事件などが相次いでいる。そして多くの犠牲者をだしているウクライナ戦争、テロなどを目の前にして・・◆人々の未来の芽を摘むこれらの悲しい出来事を思うにつれ「惜命」の二文字が胸に痛い。今夏の七夕の短冊には辞書にはないが、「幸命」と書きたい。

(西村敏雄)

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2022年6月11日RT(512)
編集部 春風

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