人と人の絆

 「もやい」とは船を綱でつなぎ止めることです。「舫い」と書きますが、「舫い綱」(写真)は、台風の時には沖合に船が流されないよう岸壁に係留し、また船どうしをしっかり結ぶための綱です。コロナ禍や貧困、差別、いじめなど息苦しい中、人が支え合い、助け合うためにもこの綱が求めてられていると思います◆「苦海浄土 わが水俣病」の著者・石牟礼道子さんが、著書の中で「もやい」という言葉使っています。ご自身は熊本県・天草市出身。65年前、同県・水俣市の水俣湾に、現・チッソの工場から垂れ流しされた廃液に含まれたメチル水銀による「水俣病」の惨状を取り上げました◆水銀で汚染された魚介類を摂取した人々の中に、四肢末梢神経の感覚障害や聴力・平衡障害、視野狭窄、言語障害などがおきたのです◆石牟礼さんは水俣病が引き起こした障害や差別、偏見等による苦しみを、「“物語”で終わらせてはいけない」として、漁師が使う「舫い」という言葉を用いて、未来を生きる若者らへと繋ごうとしたのです◆その後、水俣病の補償認定や漁民と働く場を失った人などを巡り、地元の人々のふれあいは途絶え、冷え切ってしまいました。その中で漁師さんらは、「別々におっては心が離れるばかりじゃ、一緒に舫(もや)おうじゃないか」「舫えば話ができる」と互いに胸の内を語り合い、「もう一度固く手を握りしめあった」のです◆水俣病同様、東日本大震災後も関西で避難生活を強いられ、偏見や風評被害に合われているご家族は少なくありません。コロナ禍で苦しんでいる方も引き籠もりになり「寂しさから生きる望みを失いかけている」(八幡市のコミュニティー代表)。しかし、「命がけの治療をしておられるお医者さんや看護師さんらの姿を見るに付け頭が下がります」(京都市内の病院)という。そうした声を聞くとほっとします。「もやい」は人と人の“絆”。それは、たったひとつの思いやりや親切な言葉、微笑み、寄り添いが、多くの人々の心の支えとなり勇気つけているのを感じます◆皆さん、孤立せずに今日、今から「舫いませんか」
(西村 敏雄)

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2021年2月5日RT(382)
編集部 春風

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