孫らとの一緒に過ごした50日間

 孫が生まれ、娘が我が家に。私はそれまであった自分の時間というものが確保できなくて、この間赤ん坊や2歳になったばかりの孫に接する中で頭に浮かんだことを書きます。
 我が子が小さい時のことは余裕がなく、ほとんど覚えていませんでしたから、今回寝る間もない50日間でしたが、新鮮な気持ちになることが出来ました。

母の命尽きたるを知らずして

 『いとけなき子の、なほ乳を吸ひつつ、ふせるなどもありけり』
 方丈記の養和の飢饉の所。お腹が減って夜中に泣いて目を覚ます孫を抱っこしている時、この部分がよく思い浮かんできました。もう母親が亡くなっているにもかかわらず、お乳を欲しがって吸い付いている赤児。もしかすると孫のように泣く元気はなかったかもしれません。この時は沢山の人が飢餓で苦しんでいました。生まれた赤ん坊が道端に捨てられ、死骸が町中に溢れている状態だったのです。
 原因は天候の不順だけではなく、長期に続く源平の争乱が背景にある中でのこと、田畑は荒れて収穫どころではなかったんです。そんな場面は日本の歴史上、何度もみられます。

飢饉の図 方丈記訵説挿絵

 多くの人がそんな時代を生きて来られた。このコロナ禍でも似た状況が見られますし、世界の中では今でも。全人口の9分の1以上が満足に食べられていない、世界はそういう状態にあります。

方丈記が持つ大きな力

 前々回は堀田善衛の「方丈記私記」のことを書きました。方丈記に書かれた五大災厄の具体的な事柄一つが自分の経験したことと重なり、うんうんって。そして自分に寄り添ってくれると言います。日本の文学史上、災害を正面から取り上げた初めての作品で、多くの人に力を与えてきたんだと思います。

疎開の風景と盗んだ仏の哀れさ

 戦時中の混乱期に目撃したことだそうです。セーラー服にモンペ姿の小さい女学生が大八車に乗せたピアノに、「150円で買ってください」という札をぶら下げ、立っていたそうです。
 当時150円といえば、酒1升、米5升か1斗というばかげた値段で、おそらく疎開するのに泣く泣く処分することになったのではないか、と。
 その時、方丈記の『あやしき事は、薪の中に、赤き丹着き、箔など所々に見ゆる木、~古寺に至りて仏を盗み~』を衝撃的に思い出したと言います。食べ物や木材が極度に不足して古寺に入り仏像を解体し、それを売っていたのです。「仏を盗んだ」ことではなく、そのあわれさでつながる所があったのでしょうか。長明さんだってこの状況を嘆いていましたが、その人を責める文言はなかったです。

愛しさがもたらすもの・・

 私が初めての出産で山陰の実家に帰り、生まれて1か月半後に夫が車で迎えに。母は仕事から帰ると孫をお風呂に入れてくれました。そんなことを細かく思い出しました。40年以上も前の話です。今回私にはとてもハードな日々だったので、娘たちが帰るとほっとしたのに、孫が泣いているのではないかとか随分気になりました。母も当時同じように思っていたとはっきりわかりました。そんな気持ちに包まれてここまで来たんですね。今は亡き母のありがたみをひしひしと感じています。
 方丈記の飢饉の一節に、手に入れたちょっとの食べ物を愛する人に譲る、譲った人は先に亡くなる、相手を大事に思うから、とあります。
 実際にそういう経験はしていませんが、その気持ちは想像することが出来ます。この“愛しい”という気持ちはそれほどの力を発揮する源ではないかと、この間思いました。時間が経っても忘れませんし、人を支えてくれるものです。
 赤ん坊を残して亡くなった母親の気持ちをつくづくと思います。今の時代にはあってはならないことですが。

(八幡まるごと館 上谷順子)

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2021年11月22日RT(229)
編集部 春風

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