盃は静かに置こう!
惨めな事にあった時の心得。一つ目:人や品物に八つ当たりしない。二つ目:頬に笑顔を絶やさない◆かつて同僚の文化部記者から聞いた話を。歌舞伎の9代目市川團十郎が若いころに、酒席に呼ばれたときの出来事です。酒癖の悪い相撲取りと同席しました。この力士は役者という職業を見下していました◆その力士は、足の指に盃を挟み、團十郎に「飲め」と差し出したのです。團十郎は黙って、十八番の「暫(しばらく)」を舞い始めました◆舞「暫く」の内容を。~善男善女が悪人に捕らえられ、まさに皆殺しにされようとする危機一髪の時、「しばらく~」と大声をかけて現れた人物が彼らを救う物語です~◆舞っている間、盃を指に挟んだ足を宙に上げたままの力士はたまらない。足は震えだし、体中から汗が噴き出る。やがて演技が終えた團十郎が力士の前に端座して「有難く頂きます」と◆宴の座からの拍手や喝采に力士は、あの勢いなくうつ向いたのです。
無礼千万な場面に出会っても團十郎のように落ち着いた振る舞いをするなら、「相手もぎゃふん・・」◆冒頭の心得は向田邦子の「冬の運動会」でのモノローグ。万引きした主人公が家族からも疎まれて乱暴する~だが、人間はどんなに怒り狂っても少し時が経てば正気に戻る。「かっとして八つ当たりしないことだ」と◆これからは、酒席で口論になっても、盃はそっと静かに置こう・・。自戒を込め、正月のお屠蘇を頂きました。
(西村敏雄)
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