ふるさとにたたずんで
山に囲まれた町の
古いわが家に
大きな風が吹きつけました
雨もたくさん落ちてきました
かよわい木窓がカタカタふるえ
薄い屋根がゴウゴウなきました
一晩中続いた演奏会も
夜明け前には終演で
小さな庭のドクダミが
少し斜めになって眠っていました
夜明け前のラジオから
ひとつの唄が流れてきました
「涙の数 ため息の数
溜まってゆく空色のキップ
ネオンライトでは 燃やせない
ふるさと行きの乗車券」
電気が止まった小さな部屋
畳いっぱいの温かな布団
大きな足と 幼い足が
仲良く並んで
遠い記憶のかなたで
烈しく打ちつける波の音が
海風に乗って聞こえていました
「たそがれには 彷徨う街に
心は今夜も ホームにたたずんでいる
ネオンライトでは 燃やせない
ふるさと行きの乗車券」
遠くの海で吹く風も
見渡す山から吹く風も
夏の風はいつも
ふるさとから吹いてくる
ただ 心の中に
たたずんで
―春風―
(歌詞は「ホームにて」中島みゆき)
2021年8月10日RT(114)