豪雪も「霜」くらいよ
「思(おも)て通えば五尺の雪も えらい霜じゃと 言(ゆ)て通う」。あなたを恋し慕って通う道が、2メートル近い雪道も「霜くらいよ!」◆好きになった人への思いは、豪雪も「霜」でしかない粋なおなごの恋心か◆山形県東田川郡黄金村(現・鶴岡市)に生まれた作家の藤沢周平さんは子供のころ、酒田市の図書館に通った。家が貧しいく本が買えなかった。往復40キロの凸凹道を自転車で通ったという。尻は痛くなかったのか?
藤沢さんの小説を映画化した「蝉しぐれ」は何度も観た。剣術道場と塾に通う文四郎と隣家の娘、ふくが互いに淡い恋心を抱いているとことから始まる。お世継ぎを巡る政争に巻き込まれ、ふくは藩主の正室に奉公するために江戸に◆20年を経てやっと文四郎と再会する。幼子からの思いは溶けずに「霜」のまま残っていた。が、世の無情、ふくは出家する。
「思て通えば~」は男女の恋だが、惚れた対象が人であれ、本であれ、スポーツであれ、登山であれ、無我夢中で往復40キロもの道を往復するような人が、藤沢さんであれ誰だろうと、惚れこみ、好きになり、努力に勝るものはない◆「初めから天才ではない。天才になるのだ。誰でもいつかは世に出る芽が宿っている」(ボーヴォワール)◆物書きで約50年間、自分では一生懸命にやってきたつもりだが、こちらは一向に“芽”がでない。手垢ばかりが“目”立つ。あぁ無情・・・
(西村敏雄)
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