牛と一緒に生きる

 鼻輪と杭が10㎝程離れて繫がれた牛は食べ物がなくて、立ったままガリガリに痩せていく。何もなければ普通に倒れ横になることができるのですが、杭とつながっているから鼻の奥が伸びてとても苦しんで亡くなっていった。11年前の3月11日東日本大震災の原発事故で福島第一原発から半径20キロ圏内に12日避難指示が出て、人間はすぐに避難。「警戒区域」にいる家畜に対して5月には殺処分の指示、6月には実施へ。そんな牛たちの地獄のような惨状を目にし、牛たちを「無視しているストレスや自分に対する嫌悪感」でいっぱいになり、生き残った牛たちを探そうと家畜を気にしている農家さんと動いた方がおられたんです。昼間その区域に入いる許可が必要で東京から2,3週に1回通い、その内福島で夜コンビニの仕事をしながら。牛には気持ちがよく通じるといいますが、この地が揺れて誰もいなくなり、牛は捨てられたと思い、そのうち殺しに来たので、より人間不信になって逃げまわった。一方で家族同様の家畜と離れた農家さんは本当に苦しまれた。最初は牛が信頼してくれるように心を注ぎ時間をかけて動いたそうです。草に含まれる放射線量は国が定める基準量より下がっていて、牛は荒れ放題の農地のセイタカアワダチソウや木を食べ、牛糞で土に栄養を与え、土に含まれる線量を減らし農地の保全に動いてくれているそうです。今は共に動く仲間と、数々の障壁を乗り越えて、この牛たちが生きてゆく牧場の運営を。(いとうせいこうさんの「福島モノローグ」を参考に)

この11年間を思います  

 普通に当たり前に生活していた何十万人という人たちがこの原発事故によって投げ出されたのです。5,6年前、近くの保養キャンプの取り組みに参加させていただいた時、保護者の方が「ここで話すことは地元で話せない」と言われていました。目に見えない放射能のために避難か地元に残るかという辺りだけでも被害者同士に分断ができ、中々つながらないと。家族離れ離れの二重生活、離婚、中にはいのちを絶った方も。皆さんが悲しみや悔しさを抱えて、次から次へと襲ってくる問題を前にお一人お一人苦闘され生きて来られたんです。

2021年除染作業を見つめる大熊中校庭の桜 大熊町写真館より

そんな中でつながりを

 「二度と誰にもこんな思いをさせない」、「生きる尊厳を奪われない」との思いから、2012年3月に福島原発告訴団が、更に2015年5月には「ひだんれん」(福島原発事故被害者団体連絡会)という全国組織が結成され、多くの人々がつながり、共に行動を起こします。それまで口を閉ざしてきた被害者の方々がさまざまな分断を超え手を取り、傷つけられた尊厳を取り戻すために闘うことを宣言したのです。これは集まった方々が、それぞれの被害者の異なる体験を共有する営みでもあったのではないでしょうか。

長明さんが現在いたら

 『予、ものの心を知れりしより、~世の不思議を見る事、ややたびたびになりぬ。』として、長明さんは五大災厄(大火、竜巻、遷都、飢饉、地震)で苦しむ民の姿を書きました。長明さんが現在にいたら、その中で苦しむ人々の姿をきっと書くと思います。まず原発そのものが人の手で制御できるものなのかどうか、今回のような取返しのつかない事態を引き起こしたんですから。収拾の目途もたたない。今でもそのために毎日4000人の方々が被曝労働に就いています。そして、自然や動物をとんでもない所に追いやったのも人間です。
 長明さんは言うでしょう。事故はまだ終わってないのに、何故報道されないのかと。今は3月11日前後のみ行事のように書かれているだけですから。

先を示していただいている

 原発事故後のこれらの状況はこれから先、どこにでも起こりうることなのではないかと思います。分断はコロナ禍でも、時間がかかるけれど、違いを違いとして認め合うことがこの困難を乗り越える決め手に。バラバラになるのはいつも為政者の望むところです。
 牛と共に生きる方、有機農業されている方、避難している方、ずっと警戒区域に残り動物たちと生きてきた方、・・・・。そういう人たちが苦悶されたことの中から新しい道が少しずつ見えてくるのでは。私はまだまだ知らないことが多いですが、そこから学んでいけたらと思っています。
 戦争も実は分断が出発点です。大切に心を紡いできた人間関係をもバラバラにしてしまいます。今、子どもたちが大切にされないと来るべき世界が描けなくなります。

(八幡まるごと館 上谷順子)

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2022年4月9日RT(182)
編集部 春風

編集部 春風

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