絵本に見つけたオアシス

 「この子はいつも祈りの言葉の後に何かをムニャムニャ言って寝るんだよ」。母親は気になって仕方なかった◆アンデルセンが大人向けに書いた童話「絵のない絵本」の33夜に出てくるある親子の会話です。4歳になった女の子は毎晩寝る前、神様に「われらに日びのパンを与えたまえ」と。そしてその後に「ムニャ~」。母親が「お祈りの後に何か言ったかい?」とたずねた。その子はもじもじしながら「どうかパンの上にはバターもどっさりつけてくださいましって」◆私は今、京都市・京北という北山杉に囲まれた10数人の住民が住む小さな“村”に住んでいます。娘夫婦とこの春小5になる長女ら孫らとの3世代です。夜になると、バァバや娘が絵本を読みながら寝かせます。「日本昔ばなし」「おしりたんてい」「ちはやふる」など。時々「どんな夢を見ているのかな?」と思って顔を覗くことも◆さて、アンデルセンは「マッチ売りの少女」「雪の女王」などで知られたデンマークの作家。ドイツ、フランス、イタリアにも足を運びました。でも、行ったことのないアフリカやインド、中国などの物語を絵本に描き“放浪の作家”とも言われています。この「絵のない絵本」は月が語り手として、インドや中国など世界中を旅しながら、そこで見た人々の生活や会話などを貧しい絵かきの若者に語るのです◆絵かきが毎晩、窓のそばにたちその言葉を書き記します。貧しさにうちひしがれていた若者が、次第に月の語りから生きる意味を知り、夢や笑顔を取り戻すというのが絵本の“背景”にあるのです。

 ノンフィクション作家の柳田邦男さんのエッセイ「砂漠でみつけた一冊の絵本」では、仕事や子育てなど人生の悩みやご子息の自死など親しい人の死などの実例を取り上げて、その悲しさの中から生きる力を得るための絵本などを紹介しています。「絵本は子どものために読み聞かせを~気が付けば自分自身に返ってくる」。そして「人生の困難を体験した大人だからこそ、絵本から生まれる力をもらえる」「子どもの問題はおとなの問題~子どもと一緒に無心に楽しめばよい」と◆柳田さんの現実を見る厳しい視点。一方、アンデルセンのメルヘンに隠された人を見つめる目。どちらにも「困難に直面したとき、絵本から生きる意味を語りかけてくれる」のですね。乾いた心への“オアシス”かも。女の子の可愛らしい祈りと柳田さんのメッセージから明日を生きる夢や勇気を頂きたいものです。

(西村 敏雄)

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2021年3月2日RT(44)
編集部 春風

編集部 春風

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