まだ夜が明けぬ4時のラヂオ
目覚まし時計に励まされて
硬いベッドを抜け出す
まだ夜が明けぬ4時
ラヂオを持ち電源をオンにして
暗い階下へと
ゆっくり降りてゆく
昼間は春だというのに
陽が昇らない時刻の台所には
まだまだ冬が居座っている
ガスコンロに火を宿し
青白い炎で暖をとる
「今朝は、世界三大喜劇王、チャップリンの言葉を…」
夜明け前にふさわしい低くて静かな声が
ラヂオの中でささやく
「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、
ロングショットで見れば喜劇だ」
蛇口から続く一筋の冷水を両手に留め
左右の瞼をしばらく浸す
「死と同じように避けられないものがある。
それは生きることだ」
両の手と瞼が感じる心地良い冷たさ
意識が少しずつ覚醒する
「人生は恐れなければ、とても素晴らしいものなんだよ。
人生に必要なもの。それは勇気と想像力、そして少しのお金だ」
まだ夜が明けぬ4時のラヂオ
「下を向いていたら、虹を見つけることは出来ないよ」
顔を上げ、手を広げ、手拭いをつかむ
―春風―
2021年5月4日RT(148)