京北・いのししラーメン「キャプテン」の野村ご夫妻と孫の喜丸さんに聞く

~「家族の絆」「キックボードで東京へ」「起業してみたい」~

 京都市・京北細野町で、いのししラーメン「キャプテン」(☎075-852-0489)を開いて今年で39年目を迎える野村耕司さん、美智子さんご夫妻。そして今年、大手のT損保会社と大手鉄鋼商社に合格したお孫さんの喜丸(きまる=関大4回生)さんの3人に今回のインタビューをお願いいたしました。
 モノや名声などが優先する社会。「失いかけている親子や絆や思いやりを考えるきっかけなれば」との思いからです。大学一回生の3月、約一週間かけ、キックボードで友人ら3人と東京へ行った頑張り屋の喜丸さんからは、「小さな時から祖父母を尊敬してきました」と。78歳の野村さんご夫妻も、「平たんな道のりではありませんでしたが、お客様や家族のお陰で何とかここまでやってこられました」と振り返り語ってくれました。子供たちや孫さんらの成長をしっかりと見守り、喜丸さんらも祖父母を労り、その背中をみて育ってきたのですね。「家族の絆」を改めて考えてみました。

(問い語りは「あうるゼミナールハウス理事長・岸本勇雄さん、北桑田高校校長・徳廣剛さんに次ぐ第3回目です)

(西村敏雄)

「39年間、夫婦でラーメン屋を経営してきた祖父母に憧れました」

Q:喜丸さん、大手のT損保会社や鉄鋼商社合格おめでとうございます。入社後は何を?

―まず、30歳までには海外駐在したいです。祖父は若いころ日本中、世界中で働いてみたかったのですが、家の事情でそれが叶わなかったことも聞いていました。その祖父の思いをもって世界中を舞台に活躍したいと思っています。鉄鋼商社に関しては、脱炭素社会 テクノロジーが進む社会の中でこれからますます鉄は変化していかなければならないと考えています。その中で、鉄の可能性、トレーディング・事業投資に代わる商社の新たなビジネススタイルを構築したいと思ったからです。内定先の人事の方から「貴方の自由な発想、人を巻き込む力で弊社を変革する人材として働いてほしい」と言われています。

Q:内定を誰に真っ先に知らせたのは

―いつも僕らを心配してくれている祖父母です。小さな時から細かなことを言わずに遠くからいつも見守ってくれているのが分かりました。口には出しませんが、色々わかってくれていたんだと思います。尊敬している祖父母の存在がなければ今の自分はいなかったと思っていましたから・・

Q:それを聞いていかがでしたか?

―(お爺さん)嬉しかったです。青天の霹靂でした。あまり勉強が好きでないみたいだったので。ポケットの入れた宝くじで1000万円当たったみたいで声が出なかったですね(笑い)よくやりました。一部上場の企業6社に受かったなんて・・正直びっくりしました。週一回、電話をくれます。心配してくれているんですね。

―(心配性のお婆さん)耳を疑いました。アルバイトばかりしていて「勉強している、頑張っている」という姿を見せなかったから余計に・・私らに心配かけまいと思ってくれ、よく頑張ったんだと思うんです。本当に苦労してきたからありがたかったですね・・

Q:就職といい、本当に“祖父母冥利”につきますね

―色々大変な時期もありましたが、私らはそれを、どうのこうの言いませんでした。離れていて見守るだけでしたが、それを乗り越えて頑張ってくれたんだと思います。嬉しいですよ。それと喜丸が考えることは私らの発想にはないです。驚くことばかり(笑い)。嬉しいです。保育園や幼稚園では足が速く一等賞になったら嬉しかったです。中学で生徒会長になったころからすごく変わりましたね。高校生(東山高校)では野球をしていましたが、夜遅くに帰ってからでも自分のユニホーム、食器洗いなど家事をきちんとするとか、自立してくれたみたいですね。

(お二人とも目にうっすら・・でも満身笑顔に・・)

Q:「喜丸」とは珍しい名前です。お爺さんが名付けられたのですね

―「きまる」はと考えたのは私です。とにかく呼びやすく、親しみやすく、覚えてもらいやすい名前をと考えました。父親が喜丸という漢字を付けました。皆を喜びの輪、○に巻き込める人になって欲しいという想いからです。

(喜丸さんは「とても気に入っています。就職活動でも必ず覚えてくれますから、助けられました」と笑っていましたよ!)。

Q:ところで就活前に東京までキックボードで?そのきっかけは?

―他の人とは違う方法、面白い方法で東京に行きたいと思ったからです。そこで、フランスでは通勤通学でキックボードを乗る人が多いと知っていたので、キックボードを選択しました。それと自転車だと一日で行けますし、ゆっくり楽しみながら行きたかったです。確かに大変でした。まずは、事前準備です。470キロ走り続けることができるキックボードを探すこと。山道を避けるコース探し。 両足でバランスよくキックボードに乗る練習などです。二つ目は、最後まで楽しく、面白くやり抜く気持ちです。ですが、途中の静岡から熱海へ抜ける日本でも長いトンネルは、正直怖かったです。出たら今度は峠越え、予定の熱海についたのが夜の9時でしたね。

Q:その間の宿泊や食事などは?人から受けた親切も沢山あったのでは

―まずこの旅には一週間かかりました。その中で、使ったお金は8000円です。宿泊は、ネットカフェや寝袋で野宿を交互に行っていました。3月初め、零下で雨が降ってきたときは寝袋で寒くて・・お風呂は、知らない人、スポーツジムなどに交渉し、プールの掃除をさせてもらう代わりで借りていました。食事は、ネットカフェの朝食がトースト・ポテト食べ放題なのでそこでできる限り蓄えました。夜にはスーパーに行き値引き商品を食べていました。レジに並んでいたお客さんから「頑張ってね」とおにぎりなども頂きました。東京について入ったカレー屋さんで、皆さんから僕の後頭部の「TOKYO」の文字を見て。拍手してくれた心に残っています。学生はお金がないので(笑)

(床屋で、喜丸さんは自分の後頭部に「TOKYO」との剃り込みを入れていました)

「皆が笑顔になってくれれば一番です」

Q:着想・発想が面白く、ダイナミックですね

―中学の生徒会長の時には、卒業式で、先生らには内緒で俗に“悪ガキ”と言われた友達らと相談して、当日、壇上に上がってもらい、先生や友達に迷惑かけたことへの謝罪や感謝の言葉を語ってもらいました。知らない先生らはびっくりして止めようとしましたが、彼らの本心を聞いて、先生や友達も泣いてくれました。なんというか、僕はこのようなことをするのが好きなんです。皆が最後に笑顔を見せてくれるのが一番と思っているんです。

Q:ところで会社に入ってから、またゆくゆくは「起業をしたい」とか。それはどうして?

―二つあります。一つ目は、祖父母のラーメン屋です。この田舎で、39年前から夫婦でラーメン屋を立ち上げてきた祖父母に憧れがあるからです。3年前、台風の時に表の看板を直したんです。「歳をとっても、まだやる気なんだ」と挑戦し続ける祖父母に頭が下がりました。二つ目は、人と違う面白い事をしたいという想いです。私の地元の友人には、起業するもの、ギター職人、夜職をするもの、子供がいるもの、将来の学校の先生、また様々な企業に就職する友人がいます。この地元の友達を掛け合わせたビジネスをゆくゆくは実現させたいと思っています。友達無しには今の自分はないと思っています。そんな友達と面白い仕事がしたいからです。もちろん最後はこの「キャプテン」をやります。

Q:お爺さんご夫妻で、「キャプテン」を立ち上げた。まさに“起業”ですね

―私は、昭和30年代後半から48年のオイルショックまで全盛期の呉服問屋に務めていました。税務署や関電も受かっていたのですが、自分の力を存分に発揮したいと呉服を選択、ボーナスも13カ月分はでましたね。ですがオイルショック後はダメになり、たまたま家内の兄が嵯峨でラーメン屋をやっており、行列ができるほどでした。1~2カ月働いてから、やるならいつも通っている周山街道沿いの細野でと。峠を越えたら一息つけるところを選びました。家内もあまり心配してないで背中をおしてくれましたね。いのししのチャーシューも近所の猟師さんのお知恵です。その端切れで餃子(鹿もある)も。客単価をあげたんです。関西圏だけでなく四国、九州、中部、関東などのバイクなどのお客さんも寄ってくれています。今年で39年目、「サン・キュー」です(笑い)

「めげない強さは祖父母の存在があったからです」

Q: 喜丸さんと話をしていて楽しい。めげないという強さも。働く気持ちも同じように?

―自身の経験から当たり前の生活をすることは簡単ではないと痛感しました。いい家族と普通の暮らしをする為に働きたいですね。それと小学校から僕のことを心配してくれた友人らに「暗い顔していたら迷惑かける」と思い、とにかく自分が面白いと思えることをすること、自身の根源にある「人を笑かすこと」を心掛けるようにしたんです。自身も明るく、それが今でもあるからこそ、私なんだと思っています。めげない強さは、高校野球・キックボードの経験、そして友人、祖父母の存在があったからこそ備わったと思っています。今度は働くことを通じてやってみたいと思っています。面白い事ばかりではないと思いますが、ぶれずに働いていきたいと思います。

Q:社会に出てからも予想外のことで悩むこともあります。「キックボード精神」で!

―そうですね。キックボードも含め、私は22年間濃い経験をしてきたと思っています。

それらの総合力、時には家族、友人の力を借りながら乗り越えたいと思います。大変つらいこともありましが、それらも含め恵まれていると思います。特に、祖父母らの存在は大きいです。これからはビジネスマンとして活躍する姿で親、祖父母らに孝行したいと思いますこれまで支えてくれた感謝も忘れません。

Q:後輩らに就活のアドバイスを

―会社に合った就職活動はしないでほしいと思います。自分が今したいこと将来したいことをじっくり考え、自分自身に偽りなく、自分らしさを存分に出して就職活動をしてみてください。就職はマラソンのスタートラインでしかないと思います。途中で棄権して違うマラソン大会に出ても、2回目のマラソンを走ってもいいと思っています。目の前の会社だけに捕らわれず、自分らしく走り続けてください、いいスタートラインに立てると思います。私もまだですが。(笑)

Q:それではお婆ちゃんらお二人に。39年間毎日ご一緒ですね。喧嘩は(笑い)?

―もちろんありましたよ。ある時にお父さんに「言い方がキツイよ」と言われたことがあります。それ以来、自分の言いたいことだけ言うことはやめましたね。頑固にならずに引いたら収まるんですね(笑い)。お客様相手の商売ですから、私らが暗い、きつい顔をお客様に見せられません。多分、お互いに一歩引き下がることが良いのだろうと思っています。笑顔でいられることにも・・家族にとっても大切なことだと思っています

Q:いつも「天理時報」などありがとうございます。信仰の力もご家族の絆になっているのですね

―時報には相談コーナーがあります。その内容は、夫婦喧嘩や姑との争い、人との付き合いで苦しんいることなどが紹介され、その解決方法をいつも示唆されています。それがすんなりと入ってきます。「ひのきのしん」と言いますが、何事にも喜んで、見返りを求めず人への思いやりが大切ですね。それは我が子や孫ら家族、親族、ご近所やお客様、世間の一般の方とのお付き合いの中にも当てはまります。

西村:今日はご多忙のところ、3人そろっていただいき貴重なお話をありがとうございました。優しい目でご家族を見守るキャプテンの野村さんご夫婦の健康と益々のご発展。笑顔が本当に素晴らしい喜丸さん、行く末は「キャプテンを継ぎたいです・・」と。その前に沢山、世界を巡り多くの人に会い、多様な価値観やその違いを知って、自分の将来に生かして下さいね。読者の皆さんも京北に来ましたなら、いのししラーメン「キャプテン」さんにお立ち寄りください。気さくな野村さんご夫婦の笑顔を見ながら、いのししラーメン、鹿・イノシシ餃子を・・

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2021年9月12日RT(943)
編集部 春風

編集部 春風

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