人は愛するために生れてきた

 作家の瀬戸内寂聴さんが亡くなりました。99歳◆晩年は骨折、がんなどの病と闘いながら、東日本大震災で悲しみの中にいる人に寄り添い、反戦・平和のために体をはりました◆小説家として売れっ子の51歳の時、突然、出家し尼僧に。「お金も地位もいらない」。まだ若いころに、幼子を残して若き書生と恋に落ちて家をでました。それを、「わが身の煩悩と家族への責任。それが書くことだった」のです。

 寂聴さんとのことを2つお話します。初めてお会いしたのは22年前、京都・嵯峨野の「曼陀羅山 寂庵」を訪ねた時でした。私も51歳で、新聞記者を辞めて得度して間もなくでした。“色々あった自分の人生”を打ち明けました。笑顔でこちらの話を聴き終えて、ひと言「作家になったら・・」。急に真顔になったんですよ(笑い)。ご自身の離婚を描いた「夏の終わり」も話題になり、恋に落ちた彼をかばい、「彼の心に私の存在が負担になっていたのね」◆「人は愛するために生れてきたの~」(「愛に始まり、愛に終わる」より)。以後、それをバネに、「筆一本」の小説家として燃焼し、岡本かの子の「かの子撩乱」、伊藤野枝の「美は乱調にあり」を。天衣無縫で己の信念に、愛に突き進んだ彼女らを描く姿には鬼気迫るものがあったのではと思います◆2つ目は、寂庵を訪ねた時に持参した「盃」。若いころ私が、中国・シルクロードを旅した時に、トルファンから近い鳴沙山の砂を混ぜて造ったものです。「この砂の上を玄奘三蔵が歩いたかもしれないわね」。茶目っ気たっぷりに、この盃で日本酒を飲み干してくれたのです◆「人が好き」「困っている人を見ると、いてもたってもいられないの」「世界文学の名作はすべて不倫なのよ!(笑い)」。激しい恋、嫉妬、怨念が渦巻く源氏物語。宇治十帖の主人公・浮舟は、光源氏の息子・薫と匂宮の二人との恋に苦しみの果てに宇治川に入水。通りかかった僧に助けられ尼僧に~源氏物語を書くため、宇治に出かけた寂聴さんは橋の上からご自分の影絵を見ていたのかも◆「愛別離苦」~大切な人や大好きな人であっても、いつかは離れなければならない苦しみ~「それが人生よ」。法話にはいつも出てきます◆寂聴とは、静かな心で梵音を聴くこと。「梵音とは仏の声」です。合掌

(西村敏雄)

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2021年11月13日RT(420)
編集部 春風

編集部 春風

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