天国はもう秋ですか?

 数年前のことです。HNKのラジオ深夜便でお坊さんが、「心に響く俳句」について語り始めました。その中で取り上げたのが交通事故で父親を失った三重県の女子高生の句でした。「天国はもう秋ですかお父さん」◆読み上げて後、しばらくそのお坊さんの言葉がラジオから消えたのです。僅か5、6秒でしたが、とても長く思えました◆その後のお話を。5歳の時にお母さんが病気で亡くなり、以来、お父さんと3歳の弟との三人暮らし。娘さんが、高3の時でした。お父さんが、稲刈りを終えてトラクターで帰宅途中、飲酒運転のダンプカーと衝突し病院へ運ばれたのです。病院には、飲酒運転した男性の奥さんがいました。娘さんは、うつむく奥さんに、「お父さんを返して~」と◆ベッドの瀕死のお父さんは、「ご主人が、悪いわけではない」「お父さんがもう一度左をみていたら、事故は、起きていなかったよ」◆そして息を引き取る寸前には、「誰だって、被害者にもなり、加害者にもなるんだ~この方を、責めてはいけないよ」◆その後、娘さんは大学へ進学しました。一周忌を終えて、家族で一緒に楽しんだ秋祭りに遺影を持って行き、太鼓の音を聞かせたそうです。その時に詠んだ句がこれです。

 全国俳句大会の選者でもある今井肖子さんは、「授業 俳句を読む」という本の表紙に書かれていた「天国はもう秋ですかお父さん」の句に出会い、思わず買ってしまったそうです。「青さの増してきた空一面にひろがる鰯雲を見上げていた娘さん、この句の言葉遣いの折り目正しさそのままに、背筋を伸ばして前を向いて生きていることでしょうね」と、その印象を◆深夜便のお坊さんも番組の終わりに、「辛かったね。悲しかったね」「弟さんとその後、どのような生活を送ったかは分かりませんが、きっとお父さんが最期に語った『誰だって被害者にも加害者にも~』という言葉を胸に、きっとあの時の秋空へ向かってまっすぐな道を歩んでいると思います」

 私が住む京都・京北では、小雨が粉雪となり杉林の上空を舞う時期を迎えている。交通事故などの遺族らの悲しむ姿に、遊びまわる孫らを見ていて身につまされます。でも、お父さんの最期の言葉と娘さん句から、凍りつきそうになる心に少しずつ温かいものが流れてきます。

(西村敏雄)

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2021年11月28日RT(708)
編集部 春風

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